東京高等裁判所 平成12年(行コ)50号 判決 2000年10月31日
控訴人
A
控訴人
B
両名訴訟代理人弁護士
木村峻郎
大橋英樹
復代理人弁護士
田瀬英敏
被控訴人
特許庁長官C
指定代理人
D
E
F
G
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一控訴人らの求めた裁判
「1 原判決を取り消す。
2 (本件第一請求)特許番号第一九七一七六二号の特許権に係る第四年分特許料納付書について被控訴人がした平成一一年一月四日付け却下処分を取り消す。
3 (本件第二請求)平成一一年三月一二日付け行政不服審査法に基づく異議申立てについて被控訴人がした却下決定を取り消す。」
との判決。
第二事案の概要
原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概要」の項に示されているとおりである。本件は、控訴人らの共有していた本件特許権が特許料の納付期限の徒過により登録を抹消されたため、特許料の追納により本件特許権の回復を図ろうとして、控訴人Aが単独で本件納付書を提出したことに係る事案である。
第三当裁判所の判断
当裁判所も、本件第一請求に係る訴えは、訴訟要件を欠く不適法な訴えであり、本件第二請求は理由がないものと判断するものであるが、その理由は、控訴理由に即して次のとおり判断を付加するほか、原判決の事実及び理由中の「第三 争点に対する判断」の項に示されているとおりである。
一 控訴理由(要点)
1 原判決は、「原告A(控訴人A)による本件納付書の提出は、存在しない特許権について特許料を納付しようという行為であり、法律的に何ら意味のないものであるが、特許法一一二条の二が規定するところの、特許料の不納付により消滅したとみなされた特許権の回復を求めるための特許料の追納に当たると解することができる。そうすると、本件異議申立ての実質は、消滅した本件特許権の回復を求めるものであって、共有者全員の有していた一個の権利の成否を決めるものであるから、共有者全員につきこれを合一に確定する必要があると解するのが相当である。」と判断するが、特許法一一二条の二に対応するパリ条約五条の二第一項の規定によれば、特許法一一二条の二は特許権の存続に関する規定であり、そこに規定する特許料の追納は、特許権の存続を図るためのものとして、共有の保存行為にほかならない。
2 仮に、特許料の追納が遡及的に失効した特許権の回復を求めるものであるとしても、それは従前認められていた内容、範囲において当該特許権を回復するものであり、回復に当たって、権利の内容、範囲の変更を伴うものではない。
このような権利の回復を共有者の一部が単独で行い得るものとしても、他の共有者には影響はなく、特許料の追納は、共有者全員ですることまで要求されておらず、異議申立てについても、共有者全員による行使は求められていないと解すべきである。特許権の処分や内容の変更に相当し、共有者の利害関係に重大な影響を及ぼす審判の請求とはその性格が大きく異なる。
特許権を従前どおりの内容で将来にわたって保有する意思を有していると解すべき他の共有者の合理的意思解釈によっても、共有者のうちの一部の者が異議申立てを行ったとしても、他の共有者にとって何らの問題はない。
3 さらに、本件異議申立てが不適法なものであったとしても、被控訴人は、行政不服審査法二一条に基づき、控訴人らに対して相当の期間を定めて補正を命じなければならないのに、この補正を命じなかった。本件異議申立てが不適法とされた理由は、控訴人Bが申立人に名を連ねていないというものであるが、このような手続要件の不備は、補正可能なものである。したがって、被控訴人の本件処分(本件第一請求に係る却下処分)は違法なものであって、本件第一請求及び第二請求は認容されるべきである。
二 控訴理由に対する判断
1 控訴人らの控訴理由1の主張の骨子は、特許法一一二条の二で規定されているのは共有の保存行為にほかならないというものであるが、特許法一一二条の二が規定するところが、特許料の不納付により消滅した特許権の回復を求めるための特許料の追納による特許権の回復であって、その効果は保存行為の範疇を超えるものであることは明らかである。控訴理由1の主張は採用することができない。そして、この追納によって他の共有者に影響がないということもできないから、これに反するところを前提にする控訴理由2も採用することができない。
2 行政不服審査法二一条所定の「審査請求が(中略)補正をすることができるものであるとき」とは、当該審査請求人(本件では異議申立人である控訴人A)に対して補正を命じ得るものであるときと解すべきであり、他の審査請求人(異議申立人。本件ではB)を補充することは、右事由には該当しない。したがって、本件異議申立てが不適法とされた事由に関する補正は不可能なものであって、控訴理由3も採用することができない。
第四結論
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本英史)